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人生会議ポスター取り下げに言いたいこと

人生会議ポスター取り下げ

先日、厚生労働省が作成した人生会議の啓発ポスターを公表したところ、がん患者団体や遺族から抗議をうけて取り下げとなるということがありました

 

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お笑い芸人の小藪千豊さんがモデルとなり、自分の命が潰える瞬間、自分の生き方に関するあれこれを家族と共有していなかったことを悔いるような内容となっています

 

なんでこれにがん患者団体が抗議をしたのか僕も不思議だったのですが、すでに後悔の念を抱える人たちにとってみれば、追い打ちをかけるようなことになるというのが、抗議内容です

 

これに関して、2点言いたいことがあるのでここに残しておきます

 

言いたいこと①

まず言いたいことは

ACP知っておこうよ

ということです

 

このポスターにおける人生会議ですが

もともとは

ACP( Advance care planning:アドバンス・ケア・プランニング)

という考え方で、これが普及しにくいので人生会議という名前を厚生労働省がつけたという経緯があります

 

ACPは、自分が望む医療やケアについて、家族や医療者、介護関係者などと繰り返し話し合い、考えをまとめて共有する取り組みです

advanceという英語は動詞で「進歩させる」という意味もありますが、ここでは形容詞の「事前の」という意味合いで用いられています

そういうわけでACPは「事前ケア計画」とでも訳したらよいでしょうか

 

ACPの定義は次のようになっています

 

(1) Advance care planning is a process that supports adults at any age or stage of health in understanding and sharing their personal values, life goals, and preferences regarding future medical care.

 

事前ケア計画は、年齢や健康状態に関係なく、個人の価値観、人生の目標、将来受ける医療に関する好みを理解し共有することを支援するプロセスです

 

(2) The goal of advance care planning is to help ensure that people receive medical care that is consistent with their values, goals and preferences during serious and chronic illness.

 

事前ケア計画の目標は、人々が重度疾患および慢性疾患を患った際に、価値、目標、好みに合った医療を受けることを保証することです

 

(3) For many people, this process may include choosing and preparing another trusted person or persons to make medical decisions in the event the person can no longer make his or her own decisions.

 

多くの人々にとって、このプロセスには、信頼できる他者を選択して用意し、その人が自分で決定を下すことができなくなった場合に医学的決定を下すことが含まれます

 

 

 

今病気/傷害にあっている人もそうでない人も対象にしていますが、今回のポスターを見ると、健康な段階で色々考えておきましょうということを推進したいという思惑がみえます

厚生労働省のHPでも、もしものときについて話そうという感じです

 

 

ACPは普通になされているかもしれませんが、多業種を巻き込む作業になるので、ちょっと大変です

しっかり実行されることは少なく、そもそもACPは認識すらされておらず、実際に話し合いの記録まで残しているという人は数%という状況です

 

そこまでいかなくても、かかりつけ医と自分のこれからについて話し合い、どんな治療オプションがあり、何を目標に医療介入を受けていくかということを理解して、家族や周囲の人たちと共有しておくことは大切です

 

がん治療、緩和ケアの分野では、差し迫って考えなくてはならない状況にある場合が多いでしょうけれども、ACPが積極的に行われており、患者の満足度、残された者の不安軽減、抑うつの減少に効果があるとされています

 

希望通りの選択をするためには、自分の希望を知らなければならないのですが、話し合いの中で改めて自分の生き方や希望に気づくこともあると思います

環境の変化や健康状態の変化に合わせて、何度も話し合って、都度記録を修正していくとよいです

 

流行らない背景に、自分がどうなっていくのかということを考えるのは困難という現実はあります

あまり将来のこと過ぎても現実離れしてしまうので・・・

10代や20代の若者に、将来認知機能が落ちて自分で判断できなくなったときのことを尋ねても、いまいちピンとこないと思います

どこまでの医療介入をしようか?どんな介護をうけてどういう風に生きて死んでいきたいか?なんて自分のこととして考えられないでしょう

適切な時期、適切な病期に話し合いの場を持たなければなりません

 

そうは言っても、もしもの時のことを考えていないと、救急搬送された時に望まない治療介入をされてしまったり、そもそも救急搬送されるような状況ではないにも関わらず救急搬送されてしまったりということを生じさせます

自分で意思決定できなくなった患者さんの家族が、どうしたかったんだろうね…などと考え込んでしまう場面も多々経験します

後悔している人を何人も見ると、やっぱり考えて共有しておこうよと言いたくなります

 

これまで人生会議やACPについて知らなかった人が、ポスターをきっかけに人生会議やACPのことを知って、身近な人と考えを共有するところから始めて、医療介護関係者を交えてきちんと自分のことを考えていこうという機会が増えればいいなと思います

 

言いたいこと②

もう一つ言いたいのは、ポスターの取り下げはやめようよということです

 

ACPを知ってもらうという意味においては、話題になったので成功したと言えるかもしれません

ただ、このポスターは取り下げ・・・

何千万円もかけて作成して、苦情が入ったら取り下げ・・・

ものすごい損失です

 

後悔の念を押し出し過ぎたことで、すでに後悔している人に追い打ちをかけたかもしれないという点は確かに残念です

でも、後悔をしてもらいたくないという気持ちを、きちんとお伝えして、誤解を解いていく方向で、ポスターを掲示して啓発を続けていく方向でどうにかならんかったのかと思います

人生会議で、自分らしい生き方を共有しておけてよかった、周囲の人も本人の生き様を尊重できてよかったというような作りだと、もう少し受け止め方は変わったかもしれません

 

一方、苦情に目を向けてみると、苦情を呈している人にも一定の誤解がありそうです

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/jinseikaigi-poster

 

このポスターは必ずしもがん患者を表現したものではなさそうですが、がん患者であると受け止めていらっしゃいます

勘違いして苦情を申し立てて、一事業が取り下げになったという構図だと言っても過言ではないかと思われます

 

クレームに対して過剰ともいえる反応をしがちだなと日常的に感じております

変に争いたくないという気持ちも理解できますが、向かっている方向が同じであるということを説明して、本来の目的をちゃんと達成してほしいと思います

 

どう生きたいかということを考えると、どうしても死も直視しなければなりません

人間は死亡率100%ですので

 

それも含めて、どのように自分らしい人生を過ごしたいかということを考えて欲しいです