新型コロナと心肺蘇生
患者さんが心停止に陥った場合、いち早く対応することが望まれます
ただし、その場合も、最も優先されるのは自分自身の安全確保です
目の前の心肺停止患者さんに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疑いが強いときは、どうしたらよいでしょうか?
これについて、英国蘇生評議会がステートメントを出していました
COVID-19が強く疑われる患者の蘇生についての要点は以下の通りです
- 呼吸を聞いたり感じたりしない(耳と頬を患者の口の近くに置かない)
- 心停止しているかどうか疑わしければ胸骨圧迫を開始する
- 感染リスクが高いと考えられる場合は、患者の口と鼻にタオルを置き、救急車が到着するまで胸骨圧迫と除細動を試みる
- 除細動器の使用で感染リスクは上がらない
- もし救助時にフェイスマスク、使い捨て手袋、眼の保護具などの着用が可能であれば、着用する
- 胸骨圧迫を行った後、石鹸と水で手をよく洗う(アルコール消毒も良い)
- 子どもの心停止で人工呼吸をするかは悩ましいが、心肺蘇生(CPR)を行わなかった場合の子どもの死亡と心停止による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染のリスクを天秤に掛ければ、SARS-CoV-2感染リスクの方が低いと考えられる
英国のステートメントまとめ
重要な点は
呼吸確認時に顔を近づけない
感染リスクが高いと考えられる場合は患者の鼻と口を布で覆う
という点です
それ以外は、通常通りのCPRをやりましょうという提言になっています。
そもそも呼吸の確認については、種々のガイドラインでも
「正常ではない呼吸であれば胸骨圧迫を開始」
とされています
目の前の患者さんがCOVID-19かもしれないという恐怖が頭をよぎるかもしれませんが、口と鼻に何らかのバリアを置いて通常のCPRを行えばよいということになります
ALSのガイダンス
さらに、米国心臓協会(AHA)や米国救急内科学会(ACEP)などの複数の米国学会も、 COVID-19疑いまたは確定症例に対する心肺蘇生のガイダンスを共同で発表しています
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.047463
COVID-19が疑われる患者および確認された患者における原則を提示しているので、こちらも要点をまとめます
重要な点は3つです
- プロバイダーのCOVID-19への曝露を減らす
- エアロゾル撒布のリスクを最小限にした酸素化、換気を行う
- 蘇生の適応、中断について適切かどうかを考慮する
COVID-19に感染した医療従事者は、すでに逼迫した医療対応能力をさらに低下させ、重症化した場合にはさらに逼迫させる可能性があるため、絶対に感染させないようにしようという決意です
そのために、エアロゾル撒布をできるだけ減らす必要があるというものです
具体的な方策
- 現場に入る前に、すべての救助者はPPEを着用して接触を防ぐ
- 病室、蘇生の場には必要最小限の人員のみ入る
- 救助者の数を減らすために、機械式胸骨圧迫機器が使用可能なら使用を検討
- 現場に到着する前、または場所を移動する際に、引き継ぎ先の救助者にCOVID-19の状態を明確に伝える
- 手動換気のデバイスや人工呼吸器にHEPAフィルターを装着する
- 心停止波形確認と除細動を行った後は、速やかにカフ付チューブで気管挿管し、人工呼吸器に接続する
- 挿管失敗の可能性を最小限にするために、初回成功率を最大にする術者、挿管方法を選択し、挿管時は胸骨圧迫を中断する
- ビデオ喉頭鏡は挿管者へのエアロゾル曝露を減少させられる可能性があり、使用を検討すべき
- 挿管前酸素化は、HEPAフィルター付きのバッグマスク(新生児にはTチューブ)を使用し、成人であれば、サージカルマスクで覆ったリザーバー付きマスクで行う
- 挿管がうまくいかず遅れた場合、喉頭上デバイスによる換気あるいは、HEPAフィルターつきバッグマスクでの換気を行う
- 閉鎖回路に接続した後はコネクター接続のつなぎ替えを最小限にする
- 患者あるいは意思決定代理人と、状態が悪化した場合の治療の目標を設定する
- COVID-19患者に対するCPRの開始と終了の適切性を判断する際に、第一線の医療提供者を指導するための方針を策定すべき
COVID-19患者に対する体外心肺蘇生法(ECPR)を支持するデータは不十分 安全に気を使いながら気管挿管を急いで、閉鎖回路につないでしまいましょうということです
また、CPRの開始の適切性についても触れています
BMJにも、リスクとベネフィットのバランスをよく考えてCPRを開始するような提言が掲載されていました
呼吸不全含め、臓器不全によって心停止に至った場合、その原因が打開できなければ、CPRに成功しても心停止直前の状況に戻り、再度心停止するだけです
ウイルス曝露のリスクと、蘇生の利益はよく勘案する必要があります
しかし、いきなりやめろというのも難しく、疑い症例でCPRをやめるというのも酷な選択です。やはり何らかのガイダンスは必要です
救急医療が逼迫してきています
医療者に安全で患者にも安全な医療を維持するために、何かを諦める段階に近づいており、大規模災害そのものだと思います
できる限り維持できるように尽力します