落ち着いたギラギラ救急医のブログ ER×ICU+α 

やっくんの「だから救急はおもしろいんよ」 日々の仕事や生活をつらつらと

造影剤腎症は存在するのか

造影剤腎症

前回の京都大学病院の件

メイロンのお話(滅多に使わないけど)

 

造影剤腎症を予防するために炭酸水素ナトリウムを投与しようとしたところ、事故につながったというものです

今回は造影剤腎症(contrast induced nephropathy:CIN)について考えてみましょう

 

造影剤腎症ってなんですか?

と聞かれてスパっと答えられる人は意外と少ないかもしれません

 

日本の

腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン

では、造影剤腎症について

一般的にはヨード造影剤投与後、72 時間以内に血清クレアチニン(SCr)値が前値より 0.5 mg/dL 以上または 25%以上増加した場合に CIN と診断する

と記載されています

文献によって造影剤腎症の定義はまちまちで、頻度調査も検査後数週間後まで含んだものもあります

 

例えば1989年のNEJMで、イオン性造影剤と非イオン性造影剤が腎機能に及ぼす影響を調べた研究があり、ここでは検査後48時間以内に起こる0.5mg/dLの血清クレアチニン上昇で定義しています

これによると、どちらの造影剤でも8-10%程度の造影剤腎症があったということです

 結構な頻度ですよね


 

ただ、僕がいつも思っているのが

これは因果関係ではなくて前後関係を調べたものでしかないのではないか

ということです

 

 

因果関係?

よく間違えられるのですが

「○○をしたら●●になった」

ということと

「○○は●●の原因だ」

には、空と君との間くらいの差があります

 

例えば

僕が雨乞いをしたら雨が降った

雨が降ったのは僕のおかげだ

と言ったらみんな僕をバカにすると思います

 

しかし

造影剤を使ったら血清Cr値が上がった

Crが上昇したのは造影剤のせいだ

と言ったら、みんな「そーかも」なんて思ってしまいます

 

因果関係を調べるためには、僕が雨乞いをした日と雨乞いをしなかった日で、どの程度雨が降ったのかを調べなければいけません

そこに差があったら、偶然であるということを否定できたなら、因果関係があるのかもしれません

 

造影剤についても、偶然は否定しなくてはなりません

 

造影剤を使わなくてもCrは上がる

造影剤を使わない検査しかしていない人で、どの程度血清Cr値が変動するかということを調べた文献があります


造影剤を使わないような検査をしつつ入院した人の血清Cr値を追ったところ、これまでに報告された造影剤腎症と呼ばれる変化と同じ程度、同じ頻度でCr値が変化していたということです

何か原疾患があったり、入院に伴う変化などで血清Cr値は変動すると考えられます

Cr値の上昇は造影剤の効果とは言いにくいのではないかと考えるに至りました

 

造影検査が必要な人に対してRCTをすることはなかなかに困難です

ランダム化して、一方には造影剤のプラセボを与えるというのは意味不明です

 

造影CTを救急で撮る場合

救急では造影CTを取り急ぎ撮影しなければならない状況があります

血液検査で腎機能を確認してから・・・

という声も聞かれるのですが、僕はこれは否定しています

 

救急では待ち時間もリスクになりますし、血液検査結果を待っても多分造影するからです

血清Cr値が高ければ検査を諦めるなり、なんらかの変化が起こるならわかるのですが、Cr値が3.0mg/dLだったりしたときに

じゃぁ造影はやめとこっか!

とはならないと思うのです

 

気をつけて撮りましょうか!

ともならないと思うのです(気をつけようがない)

 

RCTは難しいですが、様々な後方視研究や、それらのメタ解析をみると、どうも造影CTは検査語の腎障害に直接そこまで影響してない様子です

 

こちらの文献では、単純CT群と造影CT群を比較しておりますが、腎障害や透析の必要性、死亡率について差がなかったという結論となっています

 

造影剤のガイドラインでも様々な文献を検証しておりますので、ぜひ目を通していただきたく思います

https://www.jsn.or.jp/topics/news/20180419-public-comm/06.pdf

 

数字と戦うのも大事だが

今回、京都大学病院では、造影剤腎症を予防する目的に炭酸水素ナトリウムを使用するというルールがあり、それが元となり事故がおこりました

なんでそんなものを投与するのかということなのですが、生理食塩水や炭酸水素ナトリウムを投与すると、検査後のCr上昇を抑えられるという報告があるからです

尿がアルカリ化し、酸化ストレスを抑制することで尿細管障害を避けられるという考えに基づくようです

 

https://www.jsn.or.jp/topics/news/20180419-public-comm/07.pdf

 

確かに炭酸水素ナトリウムを投与すると、生理食塩水の投与に比べて、血清Cr値の上昇を防げるようです

しかし、腎不全発症率、透析導入率、生命予後などには影響しないとされており、特に炭酸水素ナトリウムの優位性はそこまでないというのが現時点での理解となっております

 

どうしても炭酸水素ナトリウムでなければならないということであれば仕方ないですが、検査後の血清Cr値を少し下げるために、危険を冒すことはないのではないかと個人的には考えます

数字にとらわれすぎず、患者のことを考えるなら、現時点ではルールを変えて

生理食塩水の点滴を行う

もしくは

点滴負荷をそもそも行わない

としても良いのではないかと思います

 

 

造影剤には血清Cr値の上昇以外にも、乳酸アシドーシスや類アナフィラキシーなど考えなくてはならない副作用があります

その話はまた別途・・・