薬物で逮捕
沢尻エリカさんが逮捕されました
MDMA(3,4-methylenedioxymethamphetamine)という薬物を所持していたということで、麻薬及び向精神薬取締法に違反です
悪いことをした人がいたら警察を呼ぶというのは、日本社会では当然のことです
では、診療中にそう言う人を見かけたらどうしましょうということを今回考えてみます
MDMAは覚せい剤のアンフェタミン、メタンフェタミンに類似した構造で、幻覚剤に分類されます
MDMAを服用された方を直接診察したことはないのですが、アンフェタミンは経験したことがあります
体温が上昇し、瞳孔は散大、血圧と脈拍が上昇します
こうした薬理反応から、薬剤の影響、薬物中毒を疑います
依存症を疑うのは困難ですが、普段の生活状況や、家族などの話なども考慮しながら検討していきます
では、中毒物質が仮に違法薬物だった場合や違法薬物が疑われる場合、救急医はどうしていると思いますか?
警察に連絡して、世間の晒し者にしているでしょうか?
医療従事者の役目
我々医療人も社会人です
社会が円滑にまわるように、社会運営に協力する必要があります
一方、我々医療人は患者さんの健康維持を考えなければなりません
それが社会の中での役割です
もし違法薬物が疑われる状況で、一般人なら警察に届け出るのが筋ですが、医療従事者は患者さんに対してやるべきことがあるのです(※注)
もし中毒症状を呈しているなら、症状が安定するのを見届けつつ
再発防止をする
というのが大事なことです
それでは、警察に通報すると、再発予防に繋がるでしょうか?
通報して再発予防ができればみんなそうすれば良いのですが、必ずしもそうではありません
例えば覚せい剤
刑務所に入れて反省を促しますが、再発率はとても高いです
6割を超えるということです
(平成30年度版 犯罪白書)
警察に届け出ることで社会構成員としての役割を果たせるかもしれませんが、医療者としては敗北です
というか、刑務所に数年いれて再度薬物を使用されている状況は、社会の敗北と言わざるを得ないでしょう
再発防止への第一歩として
地域の精神保健福祉センターを紹介して相談にのってもらう
精神科に一旦対応を預ける
ということを考えてみて欲しいのです
タレントの田代まさしさんも活動している「DARC」のような民間薬物依存症リハビリ施設もあります
やめつづけることがとても難しいことは、田代まさしさんが証明するという皮肉な状況になりましたが、現実は受け止めなければなりません
どうにかして、社会全体で再発防止に取り組む入り口に導かなくては、何回も繰り返してしまう状況をどうにもできません
根性ではどうにもならないのです
治療と罪の償いを同時にしていただく道を作り、社会復帰につなげたいところです
病める人への目線
直接のお手伝いができなくても、おそらく我々にすぐにでもできるお手伝いがあります
今回は薬物依存症の方の健康を第一に考えて次のような提言をします
薬物中毒、薬物依存は病気です
病人を見捨てる社会より、病人をどのように社会復帰させるかを考えられる社会の方が過ごしやすいと僕は思います
社会復帰のための報道や、目線を少し考えてみませんか?
違法薬物が流通すると言うことはあって欲しくないですし、この件で販売ルートの詳細がわかって、流通を阻止するなど社会的意義があるかもしれません
薬物への接触を一時的に断つことができるかもしれません
新しい患者を増やさなくて済むかもしれません
ですから、逮捕の意味がないとは思わないです
ただ、逮捕や送検の情報を共有して、ショーみたいなことをして、晒し者にして、誰かの何かの役に立っているのでしょうか?
罪ではなく、人格を否定するような雰囲気を醸成したら、同じ病の人はどう思うでしょうか?
自分は絶対にやらないし、依存症に陥らない
という意見もあるでしょうけれども、ナイーブすぎます
自分は病気には絶対にならない
という宣言と同程度の意味しかありません
誰でもなる可能性があるものですし、復帰は困難を極めます
犯罪者として貶めるだけではなく、病人として考えてみましょう
もう一度社会の一員になり、社会活動を営めるように応援するような方向に行くことを願っております
救急医はいつも窓口の役割で、何年間もサポートしつづけるという活動をしません
している人もいるかもしれませんが、僕はできていません
この点、実際に携わっている方々を心から尊敬します
ちょっと見方を変えると、それだけでも、社会復帰を応援する方々の追い風になるのではないかと思うので、今回はこういうお話をしました
※注
医師は麻薬中毒者と診断したら、都道府県知事への届出が義務付けられています
ただし、これは慢性中毒のことをさします
前述の通り、依存症の診断は難しいので、急いで届出をする機会というのは少ないのではないかと思います
薬物過量服用や依存症と考えられる方が受診されたら、なるべく早急に精神科医と情報共有するように心がけています
いつも協力してくれる精神科医には感謝しています