落ち着いたギラギラ救急医のブログ ER×ICU+α 

やっくんの「だから救急はおもしろいんよ」 日々の仕事や生活をつらつらと

疾患の否定は難しい

否定したい人

よく

「○○は否定したい」

「○○は否定した」

といって、怖い病気を除外していくのですが、否定って難しいです

 

 

否とは定められないのが臨床の常です

病歴聴取、身体診察、検査を通して

 

否の可能性が高い

もしくは

否の可能性が極めて高い

 

というところまではたどり着くのです

でも絶対違うという領域にはたどり着けません

 

除外診断なんていう言葉をききますが、基本的に私たちがやっているのは分数の掛け算でしかありません

引き算はできません

ゼロには近づくけどゼロにはなりません

 

除外診断は可能性がゼロのものを除外しているのではなく、可能性の高低を考えて順番を並び替えているに過ぎないのです

 

例えば心筋梗塞の人で全員胸が痛くなるわけではないし、胸が痛くても別な病気の可能性があります

心電図の特徴的な変化があっても、別な原因かもしれないし、心筋梗塞であっても心電図の変化が全くでないことも有ります

 

白黒つけられないことをわかりながら、白黒つけようとする

のと

白黒つけられると思って、白黒つけようとする

のでは

かなり思考過程が変わってくると思うわけです

  

PCRが少ない?

岡山県内でPCR検査数が少ないことに疑念を抱く声を耳にします

 

臨床的に新型コロナウイルス感染を疑うような状況でPCR検査を行ったとして、確度はどの程度になるでしょうか?

 

検体採取方法や、検査手法による変動もあるかもしれませんが、現在のところ、PCR検査の感度(コロナウイルスに感染している人が検査陽性になる確率)は高く見積もって70%程度と考えられています

この数字自体は、SARS-CoVが流行した際に検証された数値や、臨床において検査が偽陰性になる(初回陰性で2回目は陽性とか)頻度から算出したおおよその値です

 

本当のところは分かりませんが、とりあえず考える上で感度70%、そして特異度(コロナウイルスに感染していない人が検査陰性になる確率)が99.9%だとしてみましょう

 

5月8日時点で、岡山県は濃厚接触者の検査も含め、めっちゃ疑って絞りに絞ってやった検査で陽性率2%です

この条件下だと、陽性的中率(検査陽性で本当に病気の人の割合)は95%くらいになります

 

PCR検査をして陽性となった人のうち、5%は新型コロナウイルス ではないかもしれないということです

つまり、現在の岡山県の患者さんのうち1人は、実はCOVID-19ではない可能性があるのです

 

間違いないよう、しっかり検査されていることとは思いますが、検体数が増えたり、人為的なミスも含めて検査の精度が落ちたりするようなことがあれば、現象の解釈はさらに難しくなります

 

なので、ある程度疑いが強まって、検査結果を参考に診断可能な人を対象に検査を行っている状況です

 

PCR検査の解釈は難しい

現在陽性率が2%くらいのPCR陽性率が、20%程度になってくると、陰性的中率(検査陰性で本当に病気じゃない人の割合)は90%くらいになります

陽性率20%は実際に蔓延しているころだと思いますが、そんな時期において、検査陰性だとしても10人に1人は見逃すことになりますので全く安心できません

そこまで踏まえた上で検査する必要があります

 

テレビでは、最も感染がまん延しており、医療の提供が逼迫している現場だけが放映されます

自分たちの地域がどういう状況にあるのかを考え、粛々と日々の診療をしたいところです

 

おそらく県内でウイルス性肺炎のために人工呼吸が必要となる人は、大学やそれに準ずる施設に集まってきます

そうした方々は確実にコロナウイルス のPCR検査が行われますが、報道されている2名意外には重症肺炎の方はいらっしゃいません

 

不安な気持ちから、もっと蔓延しているはずだと思いたくなる気持ちがあるかもしれません

ただ、今の時点においては本当に蔓延していないと考えて矛盾していません

妙に安心して油断することは避けなくてはなりませんが、必要以上に不安になり、疑心暗鬼になることもありません