マスクが消えた
まだまだ中国で猛威を奮っている新型コロナウイルス(2019-nCoV)
日本でも感染者が報告され、今後もしかしたら広く伝染していく可能性もなくはないのですが
「感染したら最後、治療法はなく死ぬしかない」
というような誤解もされており、とても不安に駆られている一般の方がいるようです
一方で、米国ではインフルエンザのB型が猛威を奮っており、1万人を超える死者を出しています
感染者や死者数だけなら現時点ではこちらの方が上なのですが、「新型」という言葉が不安を煽っているのか、日本人の興味は完全に新型コロナウイルスに向いています
藁をもすがる思いで、そうした人たちがマスクを買って不安解消しているようです
今僕が働いている病院は人口7万人足らずの街にあるのですが、このような小さい街のドラッグストアからもマスクが消えました
ネットショップでは数万円で取引されているのも目にします
滅菌手袋よりもサージカルマスク1枚の方が高いというとんでもない状況です
新型インフルエンザのときや、東日本大震災後に放射性を持つとされる粉塵が舞っているという噂が流れた時も、同じような状況になったと記憶しています
マスクの効果
マスクを着用して、何か新型コロナウイルスに効果があるとしたら、自分が感染してしまっているときに唾を撒き散らさなくて済むということしかないと思うのですが、多くの人は、マスクをしていれば安心だと勘違いしている様子です
安全ではないけれども安心という、何か宗教にも似た信心深さを感じます
がんの治る壺にすがりつくような心境に陥っている人が多いのでしょうか
花粉症を持つ人や粉塵を避けたい人、本当に何らかの感染症にかかっていてマスクを着用しなくてはならない状況の人にマスクが行き渡らなくなるので、むやみやたらとマスクを買い漁るのは控えてほしいなぁと思います
地元自治体が、新型コロナウイルス対策ということでマスクを配布していたのですが、その時期には早すぎます
マスクが買えない不安解消、ウイルス感染以外への対策でマスク配布ということであれば何も問題ありません
ありがたいことです
マスクの効果を検証
マスクの有効性に限界があるとはいえ、医療機関ではマスクをした職員を見かけるでしょうし、どんな効果があってどんな限界があるのかということは知っておきたいところです
実際にウイルス感染に対するマスクの効果を確かめた研究がいくつかあります
家庭内での感染予防効果を調べたものについては、以下のものが有名です
Canini L, et al. Surgical mask to prevent influenza transmission in households:a cluster randomized trial. Plos One. 2010: 5: e13998.
2008年から2009年に、フランスでインフルエンザ流行時期に行われたクラスターランダム化試験です
これは個人個人ではなく、地域ごとにランダム化して介入を行うものです
対象はインフルエンザ検査陽性で、症状持続時間が48時間以内の患者がいる家庭
発症者が他の家族と同じ部屋や狭い場所(車の中など)にいる場合にマスクを着用するマスク着用グループと、マスクを使用しないグループに分けて、5日間試験を実施しました
マスクは3時間ごと、もしくは破損している場合に交換し、袋に密封して廃棄します
両方のグループで、発症患者は自分の部屋に1人で寝るように勧められました
その結果、調査期間中に感染者の家族がインフルエンザ様症状を示した割合は、マスク着用群で16.2%、コントロール群は15.8%で、有意差はありませんでした
要するに、家庭内においてマスク着用による感染予防効果は認められなかったのです
インフルエンザと新型コロナウイルスを同一視してよいかどうかという点は考えなくてはならない点ですが、両者とも飛沫感染をすると考えられております
相当にエアロゾル(液体粒子が空気中を浮遊する状態)が高濃度の状況ではなければ空気感染はせず、唾で感染するはずです
たぶん、近くにコロナウイルス感染した人がいても、手指衛生を担保しておくなどの対策を組み合わせなければ、マスクだけでは感染を防げないだろうと思います
それどころか、汚いマスクを触ることで手も汚くなってしまいます
どうせマスクを予防的に購入するのであれば、洗剤と消毒液を抱き合わせで購入してほしいです……
最近はアルコール消毒液も品薄ということですので、石鹸で頑張るしかないのかもしれません
マスクの正しい使い方
厚生労働省は、健康な人がマスクをつけることでウイルス感染の予防になるか予防にならないか、曖昧な立場という印象を受けています(いや、そうじゃなかったら大変申し訳ないのですが、自分には確定的な記述が見つけられませんでした)
対して米国は、マスクの使用に対して明確な立場を表明しております
例えば、米国疾病対策センター(CDC)が2017 年に出した、パンデミックインフルエンザ予防のための地域社会伝播軽減ガイドラインに、マスク使用に関する記載があります
ここでは、健康な人のマスク着用について
特別に高リスクの状況を除いてルーチンでの使用は推奨しない
としています
特別な状況とは
・混雑した状況を避けられない場合
・家族を自宅で看病する場合
などです
また、米国食品医薬品局(FDA)のウェブサイトにもマスクについての記載があります
もし適切に着用した場合は、ウイルスや細菌を含む可能性のある大きな粒子の飛沫をブロックし、自分の唾液や呼吸器分泌物を他人にさらされることを減らすのに役立つとしています
そして、空気中の非常に小さな粒子はフィルターされず、マスクの表面と顔の間にゆるい部分があるため、細菌やその他の汚染物質からの完全な保護は提供できないとしています
限界を共有するのは重要なことです
あと、「もし適切に着用した場合は」と書かれている部分に関してもしっかりフォローがあります
重要な点だと思いますので、マスクの使い方を一緒に確認しましょう
以下の5点は超重要です
(1)マスクは複数回使用することを意図していない
(2)マスクが損傷したか汚れている場合、またはマスクを介した呼吸が困難になった場合は取り外す
(3)使用後は安全に廃棄して、新しいものと交換する
(4)マスクはビニール袋に入れてゴミ箱に入れる
(5)使用済みのマスクを扱った後は、手を洗う
使用後に手を洗わなければ、ただ感染伝播を助長する道具になります
これは僕らも普段の業務を行う上でしっかり念頭に置かねばならない部分です
治療も重要な仕事ですが、率先して正しい恐れ方を提示するのも医療機関の大事な仕事ではないかと思います
マスクは買えば安心ではありません
今日から正しく使い、手洗いしましょう