落ち着いたギラギラ救急医のブログ ER×ICU+α 

やっくんの「だから救急はおもしろいんよ」 日々の仕事や生活をつらつらと

教育の効率化で人間はダメになる?

効率的な教育で失うものがある?

以下の記事で、理不尽な教育ではなく、効率的に教育することが大事ではないかということを訴えました

doctor-hero.hatenablog.com

 

特に、中心静脈カテーテルに関して、シミュレーショントレーニングを導入することにより、さらに安全に確実に教育を行うことが可能になることを示し、技術の習得への効率が上がった例を示しました

 

こうしたことを指摘すると、こういう面も大事だよねということに理解が得られる一方で、効率化を図ることで人間性が損なわれているのではないかというような指摘もうけます

そういう効率化を求めると人間性が損なわれるのかという点について考えてみましょう

 

 

人間的成長も教育だ

最初に言っておくと、技術の習得と人間性の成長は、相反することではないと思われます

技術のみに注力するのもよくないのでしょうけど、同時に教育しなければならないことであるという視点が重要です

 

医師としてのコアコンピテンシーというものがあります

その職種の核となる資質みたいなものです

 

例えば、米国ACGME(卒後医学教育認定評議会)は、医師としての6つのコンピテンシーを提示しています

 

  1. Interpersonal and communication skills(患者や他の医療者と良好な対人関係)
  2. Medical knowledge(医学知識)
  3. Patient care(適切な患者ケア)
  4. Practice-based learning and improvement(診療に即した学習と改善)
  5. System-based practice(医療システムに基づいた診療)
  6. Professionalism(プロフェッショナリズム)

 

www.academia.edu

 

これらのことを、満遍なく身につけていくことを、教育アウトカムとしているわけです

 

日本でも新専門医制度が始まり、各科で専攻医の育成を行なっているところですが、プログラム作成にあたっては専門研修プログラム整備基準が公開され、救急科専門医として身につけるべきコンピテンシーも提唱されています

 

  1. 患者への接し方に配慮し、患者やメディカルスタッフとのコミュニケーション能力を磨くこと
  2. 自立して、誠実に、自律的に医師としての責務を果たし、周囲から信頼されること(プロフェッショナリズム)
  3. 診療記録の適確な記載ができること
  4. 医の倫理、医療安全等に配慮し、患者中心の医療を実践できること
  5. 臨床から学ぶことを通して基礎医学・臨床医学の知識や技能を修得すること
  6. チーム医療の一員として行動すること
  7. 後輩医師やメディカルスタッフに教育・指導を行うこと

http://www.jaam.jp/html/senmoni/doc_kikou/emergency2019.pdf

 

技術や知識の習得だけはなく、こうした医師としての資質みたいなものも磨いていきましょうね、ということなのです

 

当院の専攻医プログラムの教育目標も、これに準拠して作成しております

もし、技術や知識の習得が効率的にできるのだとしたら、これらのコアコンピテンシーの獲得に割く時間が増えるはずですし、何かコンピテンシーが欠けているのだとしたら、それを強化するように動くことができるはずです

 

コンピテンシーの足りない医師をどうするか

効率化と働き方改革の名の元に、自分の権利ばかりを主張して、患者のことを無視する医師がいたとしたら、それはプロフェッショナリズムの欠如が問題となっていますし、患者中心の医療を提供できていないことになります

 

しかしどうやったらプロフェッショナリズムが身につくのか

これは非常に難しいですよね

 

自分で気がつくまでただ叱咤を続けたり、暴力にさらしたり、単純作業を強いてみたりというやり方もあるのかもしれませんが、もしもっと良いやり方があるのであれば、積極的に模索した方が世の中のためではないかというのが僕の言いたいことです

 

ただ、具体的方策については、答えが明確ではない部分です

日々手探りで各施設やっているのだと思われます

 

プロフェッションの足りない人がいたら自分ならどうするか・・・

 

①本当に患者のことを考えていない

→プロフェッショナリズムについて座学の時間を設ける(プロフェッショナリズムの欠如による個人的・社会的影響を知ってもらう)

②制度上、プロフェッショナリズムの実践ができていない

→どのような診療体制にしたら私生活と業務の維持ができるかということなどを考えるカンファレンスを積極的に設けて、実践のきっかけを作る

③アンプロフェッションだと思う事例がある

→どのように改善することができるかをみんなで模索する(抽象的に個人の努力や根性に頼るではなくて具体的方策を盛り込む必要がある他、匿名化するなど、ただの吊し上げになってしまわないようにするのが望ましい)

 

こんなところですね

 

アンプロフェッションであるという事は、直接本人に伝えにくいことです

しかしきちんと客観的にフィードバックする必要があります

 

この時に、怒鳴ったり殴ったりという教育を行うことは、厳しさではなく、ただの理不尽だし効果的ではないと考えます

 

厳しさとは

厳しい鍛錬とか、厳しい指導とか言われます

厳しいってどんな状況でしょうね?

 

おそらく、できていないものをできていないと指摘することが厳しさで、その合格基準の高さこそが厳しさだと思います

そして合格するまでフィードバックを続ける、できるように方策を考えることが教育のはずです

 

改善へのプロセスを一緒に考えながら指導してくれる人に僕はついていきたいです

自分自身、上司はじめ、職場の人たちからアンプロフェッションな部分を指摘されたことが幾度となくあります

プロフェッショナリズムなど勝手に身につける資質、身につけておくべき資質だと思われがちかもしれませんが、僕自身は様々な人から影響を受けてきましたし、まだまだ育てていただいております

プロフェッショナリズムが身につかなかったら淘汰されるべきだという考え方もあるかもしれませんが、プロフェッションは社会から求められ社会に還元するものですから、より良い循環を促すことも求められていることなのではないかと思います

 

評価が重要

プロフェッショナリズムが身についたかどうかの評価はとても難しいです

言語化できなかったり、そもそも定義がみんなで共有できていなかったり、本当に難しい

そうは言っても、教育目標にコアコンピテンシーを掲げたからには、卒業のときにそれを身につけている必要があります

絶対に評価しなくてはなりません

 

どの程度コアコンピテンシーを身につけられたのかということを、1人の指導者が評価するのが徒弟制度なのかもしれませんね

まさにジェダイのようです

 

理不尽や不透明な評価に晒されると、アナキン・スカイウォーカーみたいにダークサイドに堕ちてしまいかねません

 

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透明性を担保しながら、できるだけ多くの人からの客観的な評価をもらうことが望ましいと思われます

そして、具体的な改善策も提示しなくては、ただの批評になってしまいます

 

評価項目を作って、評価して、フィードバックしてまた評価して……

 

そんな時間ねーよと思われるかもしれませんが、医師の仕事は臨床だけではなく、教育も含まれるはずなのです

教育にもっと時間を割くことが許される環境づくりのためにも、効率化が必要だと思っています