五感を使って
普段から、五感をフル活用して診察するのは大事だと思っています
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚です
研修医にも、自分の感覚を存分に生かして診察するように指導しています
例えば下痢の患者さん
どんな色の便が出ており、腸蠕動がどのような具合で、便の粘稠度はどの程度で、どんな匂いの便か気にしつつ味を…
いや冗談です
食事中の人は申し訳ありません
もちろんう○こを研修医に食べさせるようなマネはしておりません
僕も食べません
今回のテーマは第六感です
怪しい話ではないので読むのをやめないでください(笑)
第六感
救急現場では、臨床的直感に基づいて動くことがあります
直感なんてアホらしいと思われるかもしれませんが、きちんと説明すれば、普段から直感しているなと納得がいくとおもいます
僕らが臨床推論をする際には、医療面接から身体診察、検査の吟味を通して、あの病気じゃないか、この病気じゃないかとアレコレ考えます
この思考過程には2つのプロセスがあるとされています
パターン認識による
非分析的処理法(non-analytical process)
と
演繹的に考えていく
分析的処理法(analytical process)
です
次々に新しい情報が重なっていく臨床現場では、この2つの方法を適宜組み合わせて臨床推論しているといわれており、これを
臨床推論のための二重処理理論(dual-processtheory)
と呼んでいます
Heuristicな非分析的処理と、分析的処理では対応の仕方が全く異なります
大まかに特徴を分けると以下の表のようになります
非分析的処理はより直感的な診断といえます
他人になんでそう思うのかと言われても伝える時には苦労します
直感的処理に基づく診断
直感的処理に基づく診断には3つのタイプがあると指摘されています
(1)Gut Feeing→警鐘に似ている、なんとなく違うと感じる、虫の知らせ
(2)Recognition→キーとなる症候や症状を見て「これだ!」と気付く
(3)Insight→記憶のかなたから突然ひらめきが訪れる
この3つのプロセスがまさに臨床における第六感です
具体例をあげましょう
(1)Gut Feeing
鉄棒をしていたら下腹部痛を訴えた小学生
そもそも病歴がおかしいし、打撲じゃないし内科的疾患にしては突然発症すぎる
睾丸まで観察すると片方だけ大きくなっていた
→精巣捻転
(2)Recognition
腹痛で搬送された若年男性
めちゃくちゃ痛がっている
臥位にすると疼痛が増強するので座位を好む
急性膵炎ではないか?
→急性膵炎
(3)Insight
熱中症の触れ込みで搬送された中年男性
作業中に気分が悪くなり腰の重だるい感じを自覚し嘔吐した
近医で点滴加療されたが症状が改善せず受診
頻脈があり、ひどく汗をかいており、気分が悪そうにしている
聞けば突然気分が悪くなったとのこと
急激な後腹膜病変?血管?すぐにCT撮影
→大動脈解離
と、こんな感じです
これをいかに磨くかということですが、なんとも難しいものです
分析的思考は言語化できるので伝承もしやすいです
理論や問題解決方法をまとめたマニュアル、データベースなどを用いて、順序立てて物事を考える準備ができるのです
これから外れたものにいかに柔軟に対応できるかというのが非分析的思考です
特定の文脈ごとの経験の反覆によって培われる野生の勘とでもいいましょうか
生の体験にいかに多く接するかということが最終的にものを言うのだと思います
2つをバランス良く経験することで、臨床推論の幅が広がり、診断がより確固たるものになると考えています
現場での対応
救急の現場は不確実性にあふれています
いくら理論武装していても簡単に壊されます
発熱しない敗血症患者さんなんてありふれた存在です
敗血症患者の○%は発熱をしない
なんて情報を持ち合わせていても、残念ながら答えにたどり着かないのです
ちょっとした意識障害や呼吸の異常などから、第六感を働かせて診断にたどり着かなくてはならない瞬間も多々訪れます
個々の患者さんと触れ合う中で、これまで経験したシナリオと照合したり、これまで学習した理論との整合性を吟味したりしながら毎回答えを出していくのです
患者さんは教科書であり先生であり治療対象です
一期一会を大切にしたいものです