落ち着いたギラギラ救急医のブログ ER×ICU+α 

やっくんの「だから救急はおもしろいんよ」 日々の仕事や生活をつらつらと

悪魔の証明!インフルエンザの治癒証明

悪魔の証明、治癒証明

世の中には、悪魔の証明というものがあります

 

“存在しない事”を証明するのははなはだ困難なので、そのように言われます

 

「悪魔がいないというなら、この世に悪魔が1匹もいない事を証明しろ」

なんて言われても不可能なわけです

世界中をくまなく探したとしても…いない証拠はどうにも提出できません

 

というわけで、一般的には“ない”ということの証明はとっても難しい、というか不可能とされます

 

実は、この“ないことの証明”を求められ、困る事がよくあります

 

今からの時期で困惑するのが

インフルエンザの治癒証明

です

 

インフルエンザの治癒証明

自分で診察して診断し、診断日から5日経過したから治癒しているだろうと考えて出す証明書ならまだ分かるのですが、救急外来に突然現れて

 

「先日インフルエンザだと言われました。解熱から2日経ったので明日から学校に行くための治癒証明書を下さい」

 

などと言う人がいるのです

 

本当に2日前に解熱したかどうかも分からず、インフルエンザだったのかどうかすら分からない

そんな状況では、もちろん証明書なんて書けません

せめて紹介状でもほしいところです

 

こちらが困って「書けません」と申し上げても、患者さんも困ってしまって、外来ブースでただただ見つめ合う医師と患者の間に微妙な空気が流れます

 

そもそも、治癒証明がなぜ必要なのか分かりません

法的にもきちんと休むべき期間が定められており、その期間を過ぎたら学校へ行ってもいい事になっているのだから、発症日からどれだけ経過したかを考えればそれで良いと思うのです

 

いつ解熱したかは本人にしか分からないことではありますが・・・

 

おそらく、インフルエンザについては治癒証明書で得する人は多分誰もいません

 

・会社や学校→不確実な証明書をもらうことになる

・患者→会社や学校、保育園の命で再度病原菌だらけのところへ赴くはめになる

・病院、診療所→診断書代がもらえる

あ…病院は得してる…(汗)  

 

どうやったらこの治癒証明問題を解決できるでしょう…

 

ちなみに、厚生労働省も文部科学省も必要ないと言っているのに、治癒証明書をもらってこいという文化が廃れません

由々しき事態です

 

出席停止

出席停止は、学校保健安全法第19条で定められています

 

校長は感染症にかかっており、かかっている疑いがあり又はかかるおそれのある児童生徒等があるときは、政令で定めるところにより、出席を停止させることができる

 

というものです

 

出席を停止させることができるのは

医師ではなくて校長(園長)

です

 

許可証を発行すべきなのは校長だと思うのですが、なんで医師が許可証を発行する必要があるのかというと謎です

 

出席停止の解除に自信のない校長が医療機関を頼っているうちに、なんとなく慣習化したのでしょうか

 

出席停止解除の基準は明文化されている

出席停止解除の基準は明文化されています

 

この判断基準が、非医師が判定できないようなものだったら医師の判断を仰いだらいいのではないかと思いますが、例えばインフルエンザに関しては以下のような記載となっています

 

インフルエンザ(特定鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)にあつては、発症した後五日を経過し、かつ、解熱した後二日(幼児にあつては、三日)を経過するまで

 

これなら、家で保護者が判断できるし、それを基に学校長が出席停止解除の判断をすることも可能なのではないかと思います

 

ただ、判断困難なものも確かにあり、以下のように出席停止日数の基準を定めているものもあります

 

結核、髄膜炎菌性髄膜炎及び第三種の感染症にかかつた者については、病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで

 

こうした疾患は、医師の判断をしっかり仰ぐよう校長から指示をしなくてはならないと思います

 

しかし、そうでない感染症までいちいち登校許可証を医師に求める必要は、やっぱりないのではないでしょうか

 

医師の登校可能であるとする判断基準と、感染症法に記載されている登校可能であるとする判断基準に大差がないからです

 

医師に「許可」を求める理由  

登校許可証を医師に求める理由として

 

「感染症を隠して通学してくる人がいるかもしれないから、きちんと医療機関で通学していいかどうかを判断してもらうべきだ」

 

というような意見もあります

 

ただ残念ながら、医師も嘘を付かれたらどうしようもありません

 

自分の子供でもなければ、患児の解熱が何日前だったかなんて知りようがありませんし、他の医療機関で診断されていたら、発症したタイミングを知るのは難しくなります

 

その医療機関にこちらが連絡すれば分かるかもしれませんが、他院に個人情報を電話などで問い合わせるのはかなりハードルが高いことです

 

治癒証明などを発行する際は、保護者の情報から判断することになるので、嘘をつかれたらどのみち終わりです

 

また、救急外来や休日診療所などでインフルエンザの診断を受けた人が、症状改善後にかかりつけ医を受診しても、かかりつけ医も自信を持って登校許可証を発行できません

 

きちんと管理したいのであれば、治癒証明ではなく、普通に診断書を提出することを義務付けるなりした方が、後で出席停止解除する基準が分かりやすくて良いと思います

 

行政の態度も疑問だ

疑問点がもう一つあります

登校許可証について、僕が在住する自治体のウェブサイトにはこんなことが書かれています

 

感染症に罹って、医師からの出席停止の指示をうけた場合は、登園する際「学校感染症に係る登園に関する意見書」が必要です。登校・登園に関する意見書が必要な人は下記からダウンロードしてください。

 

一方、その行政が用意した意見書(診察医師がサインする書類)は下記のようになっています

 

学校感染症で欠席された場合、この意見書を提出すれば出席停止扱いとなります。○○市立小中学校、幼稚園、保育園および○○市内の私立幼稚園、民間保育園、認定こども園、幼児教室では、学校感染症にかかった子どもが登校(園)するときは、この意見書を提出するよう指導しておりますので、よろしくお願いします。 (なお、この意見書代については、○○市医師会に無料で協力を依頼しております。)

 

つまり、市民には「必要」と言っておきながら、文書内では学校感染症にかかった子どもが登校(園)するときは、この意見書を提出することが「必要」とはなっておりません

 

医療機関側に見せる文書には必要性の記載がないのです

 

そりゃそうです

何の法律にも基づかない行為を強制しているからです

行政がこんなことして許されるのかと甚だ疑問です

受診料や「意見書代」など、お金がかかることを強制するのであれば、それなりの法的根拠が必要だと思います

 

市内の医師会には協力を仰いでいるようですが、プロの意見を伺うのにタダでお願いするっていうのも残念な感じがします

患者さんのことを考えるなら、健康な状態にも関わらず外来で待つことを強要するのは健康管理上よくないと思われます

何らかの感染症が蔓延している時期は特に、です

 

治癒証明問題、何とかなりませんかね

本当に